※本記事は一般的な法的解説であり、具体的な案件についての法的助言ではありません。実際に実施される際は、必ず弁護士・弁理士など専門家にご相談ください。
結論 生産から20年経過・メーカー供給停止の部品はほとんど合法。ただし、製品ごとの特別な法律により例外的な取り扱いが発生する可能性がある
理由
一般的に抵触する法律は①特許法、②意匠法、③不正競争防止法、④著作権法です。
特許法
→存続期間が20年間であり、更新もできないため問題なし
意匠法
→保護されるのは美観・デザイン(形状、模様、色彩、全体的な外観)であり、構成部品・内部部品が侵害になることは極めて稀
不正競争防止法
→メーカー自身が供給停止した事実が不利に働く
著作権法
→保護されるのは思想・感情を創作的に表現したものであり、工業製品が侵害になることは極めて稀。構成部品・内部部品はありえない
ただし、③不正競争防止法は法律で直接禁止されていないことがなんでも合法になってしまうことを防ぎ社会正義の観点から是正する最後の砦であるため、講学的に絶対に問題がないとは言い切れないことをご容赦いただきたいです。
また、製品ごとの特別な法律には「半導体集積回路の回路配置に関する法律」があり、半導体に限定して特別なルールが定められています。今後も国家的に重要な産業に限定して特別なルールが定められることは否定できません。
注意
法律で問題がなかった場合も契約で禁止されている場合があります。メーカーが重要な事業と認識している場合は、メンテナンス業者の皆様はメーカーとの契約が解除されることもあれば、関係悪化につながることもご留意ください。
1.そもそも「リバースエンジニアリング」とは?
リバースエンジニアリング(Reverse Engineering)は、すでに完成している製品やソフトウェアを分解・解析し、その仕組みや構造、設計思想を読み解く行為を指します。
- 市販品を分解して構造や材質、加工方法を調べる
- 3Dスキャンして形状データを取得し、CADモデルを起こす
- ソフトウェアの挙動を解析して、仕様やインターフェースを推定する
こういった行為は、製造業・ソフトウェア業界では昔から自然に行われてきた「研究開発」の一つです。一方で、**「それってコピーじゃないの?」「法律的に大丈夫?」**という不安を持たれる方も多いはず。本章では、この素朴な疑問に答える形で、リバースエンジニアリングと日本の法律の関係を整理します。
2.結論から:日本では「やり方」と「使い方」を間違えなければ合法
いきなり結論から言うと、
リバースエンジニアリングそのものは、日本では原則として違法ではありません。
ただし、
- どのような製品・情報を
- どのような手段で入手し
- 解析で得た情報を、どのように利用するか
によっては、著作権法・特許法・意匠法・不正競争防止法などに抵触する可能性があります。
つまり、
- ✅ 正規に入手した製品を、自社内の研究開発目的で解析する → 一般的に許容されるケースが多い
- ❌ 他社の特許・意匠をそのまま真似て量産・販売する → 権利侵害になる可能性大
- ❌ 盗み出した図面・試作品を解析して製品化する → 不正競争防止法がストレートに問題
というイメージです。
3.リバースエンジニアリングに関係する主な法律
日本でリバースエンジニアリングを考えるとき、意識すべき法律はおおよそ次の5つです。
- 特許法・実用新案法
- 「発明」や「考案」の技術的アイデアを保護する法律
- 解析自体は許されても、特許権のある発明を実施(製造・販売など)すれば権利侵害になり得ます。
- 意匠法
- 製品のデザイン(形状・模様・色彩など)を保護
- 解析した結果、見た目までそっくりな模倣品を製造・販売する行為は、意匠権侵害のリスクがあります。
- 著作権法(特にソフトウェア)
- プログラムのソースコードなどは「著作物」として保護
- 2019年の法改正で、プログラムの「調査・解析」のための利用が一定条件で認められることが明文化されました(著作権法第30条の4など)。
- 不正競争防止法(営業秘密の保護)
- 秘密として管理されている技術情報・営業情報(営業秘密)を、不正な手段で取得・使用することを禁止
- 情報が「(1)秘密管理されている」「(2)有用」「(3)非公知」であれば営業秘密となり、不正取得・使用・開示は民事・刑事の対象になります。
- 契約(利用規約・NDA・雇用契約など)
- ソフトウェアの利用規約で「リバースエンジニアリングの禁止」が明記されているケースもあります。
- NDA(秘密保持契約)や雇用契約で「解析禁止」とされていれば、契約違反となりうるため、法律とは別に要注意です。
4.「ここまではOK」とされやすい代表的なケース
一般的な解説や実務上の運用を総合すると、次のようなケースは合法と評価されやすいゾーンです。
4-1.正規に購入した市販品を、自社で分解・解析する
- 市場で普通に購入できる製品を
- 自社の技術習得・品質比較・設計検討などの研究開発目的で分解・解析する
このような行為自体は、知的財産権を侵害しない範囲では一般的に許容されると解説されています。
例:
- 競合メーカーの部品を分解し、加工方法や材質を調査
- 既存部品の3Dスキャンを行い、自社向けに改良した形状を設計
4-2.保守・修理・代替部品のための解析
- すでに供給が終了した部品を再現して設備を維持したい
- 設計図が残っていない自社設備の部品を3Dスキャンして作り直したい
といった保守・メンテナンス目的のリバースエンジニアリングも、
特許権や意匠権の存続状況に注意しつつ行えば、現場では広く行われています。
4-3.ソフトウェアの相互運用性のための解析
2019年の著作権法改正により、プログラムの調査・解析を目的とする利用は、一定の条件を満たせば権利制限規定として認められています。
- 他システムとの連携インターフェースを理解する
- 不具合解析・セキュリティ検証のために挙動を解析する
といった目的での解析は、「著作権侵害ではない」との方向で整理されてきています。
5.「ここから危険」違法になり得るNGパターン
逆に、次のようなケースは明確に危険ゾーンです。
5-1.営業秘密を「不正な手段」で入手して解析・利用する
不正競争防止法上の営業秘密(秘密管理・有用性・非公知を満たす情報)を、
- 退職者が持ち出した設計データを使う
- ハッキングやなりすましで図面を入手する
- NDAで得た情報を、別案件で勝手に流用する
といった不正な手段で取得・利用すると、民事・刑事で責任を問われる可能性があります。
5-2.他社の特許・意匠をそのまま実施する
- 解析で得た形状・構造が、有効な特許や意匠権の範囲に含まれている場合
- それをほぼそのまま製造・販売すれば、権利侵害と評価される可能性が高いです。
解析行為自体はOKでも、その成果をどう使うかで一気にNGになる点がポイントです。
5-3.ソフトウェアのコードをそのまま利用・配布する
- デコンパイル・逆アセンブルしたソースコードをコピーして自社製品に組み込む
- 解析で得たコードを第三者に提供する
こういった行為は、著作権法上の複製・翻案・公衆送信などに当たり、著作権侵害となるリスクが高いとされています。
5-4.利用規約や契約で禁止されているのに解析する
- ソフトウェアライセンスで「リバースエンジニアリング禁止」と明記されている
- 共同開発契約やNDAで「解析禁止」とされている
にもかかわらず解析すれば、契約違反として損害賠償等を請求される可能性があります。
6.2019年著作権法改正で何が変わったのか(ソフトウェア)
リバースエンジニアリングの世界で特に大きかったのが、2019年の著作権法改正です。
- 改正前:
- ソフトウェアの逆コンパイル・逆アセンブルは、
「場合によっては著作権侵害になり得る」とされ、グレーな扱いでした。
- ソフトウェアの逆コンパイル・逆アセンブルは、
- 改正後:
- プログラムの「調査・解析」を目的とした利用について、
権利制限規定(著作権者の許諾なしでできる範囲)が明文化されました。
- プログラムの「調査・解析」を目的とした利用について、
ただし、ここでもポイントは同じです。
- ✅ 挙動を調べ、アルゴリズムやインターフェースの「アイデア」を学ぶ → OKになりやすい
- ❌ 得たコードそのものを流用して、自社製品で利益を上げる → NGになりやすい
**「表現(コード)を盗むのはダメ、アイデアの理解はOK」**という整理です。
7.量産試作.comが考える「安全なリバースエンジニアリング」のポイント
製造業向けのリバースエンジニアリングでは、実務的には次のようなチェックリストを意識すると、安全側に振れます。
- 入手経路はクリーンか?
- 正規購入か、自社資産か、公知情報か
- 盗難品・試作品の持ち出し・NDA対象品ではないか
- 対象に有効な特許・意匠権が残っていないか?
- 出願・登録状況、存続期間を調査
- 残っている場合は、その権利範囲を外す改良設計が重要
- 営業秘密に触れていないか?
- 「機密」「Confidential」表示、アクセス制限のあるデータではないか
- 元社員・協力会社経由の情報なら特に要注意
- 利用目的は何か?
- 保守・代替・性能向上・互換性確保など、合理的な目的があるか
- 「丸コピーして安く売る」目的になっていないか
- 契約で禁止されていないか?
- ソフトウェアライセンス、NDA、共同開発契約などをもう一度確認
量産試作.comとしては、
「他社の権利を尊重しつつ、自社の技術力を高めるためのリバースエンジニアリング」
を基本スタンスとし、必要に応じて専門家と連携しながら案件を進めていくことをお勧めします。
