リバースエンジニアリングをBtoBで依頼する場面では、
「どう伝えるか」=「どこまで期待通りに仕上がるか」 をほぼ決めてしまいます。
実務では、
- 図面や3Dデータが残っているケース
- 現物しかないケース
- 「だいたい今の形で、ここだけ変えたい」ケース
など、状況はいろいろです。
この章では、BtoBの現場で使える“伝え方の選択肢”を一通り整理しつつ、
「どう組み合わせると、リバースエンジニアリングがうまくいくか」を解説します。
1.大前提:一番ありがたいのは「図面・CADデータ」
1-1.2D図面がある場合
まず、BtoBでは 「図面はあるが、現物との差分や改良をしたい」 というケースがいちばん多いはずです。
図面が出せるなら、
- 現行図面(最新リビジョン)
- 過去の改訂履歴(Rev.A, Rev.B など)
- 公差・表面粗さ・材質・処理の指定
をセットで渡すのがベストです。
そのうえで、
- 「この寸法は維持してほしい」
- 「この面は、もう少しRを大きくしたい」
- 「公差はここまで厳しくなくてもよい」
といった “変えたい点/変えたくない点” をマーカーで追記すると、
リバースエンジニアリングというより 「設計のリファイン」に近いスムーズさ で進められます。
1-2.3D CADデータがある場合
3Dデータ(STEP, Parasolid, IGESなど)がある場合は、さらに強力です。
- 外形の再現
- 干渉チェック
- 他部品との取り合い確認
が一気に進むので、
「現物からフルスキャンする手間」をかなり省けます。
ここでもポイントは、
- ここは形状そのまま
- ここは軽量化したい
- この穴だけ位置変更したい
という “変更指示” を、図面か簡易スケッチで補足すること です。
2.仕様書・要件で「ゴール」を先に共有する
図面や3Dデータがあっても、
「何のために作るか」が曖昧だと、仕上がりの方向性がブレます。
依頼時に、簡単でもよいので 仕様・要件レベルの情報 を添えると非常に有効です。
2-1.用途と使用条件
- どの装置・どのユニットに使う部品か
- 屋内/屋外、温度環境、油・水・薬品の有無
- 人が直接触れるのか/見える場所なのか
2-2.性能・寿命・安全側の条件
- 耐荷重・繰り返しサイクル・目標寿命
- 壊れるとどういうリスクがあるか
- 満たすべき社内基準・顧客仕様(あれば)
2-3.優先順位(QCDの何を優先するか)
- 現行よりコストを下げたい
- 重量を落としたい
- 剛性・耐久性を上げたい
- 外観重視で仕上げたい
この「ゴールの整理」があると、
同じ図面でも“読み方”が変わるので、リバースエンジニアリングの提案の質が上がります。
3.文字+スケッチ:アイデアを“線”で共有する
図面やCADがない、あるいは 「ここから先は新しい形状にしたい」 という場合、
文字情報だけだと限界があります。
そこで効いてくるのが ラフスケッチ です。
プロレベルである必要はまったくありません。
3-1.スケッチで描きたいポイント
- 正面・側面・断面の“だいたいの形”
- ここを太く/ここを細く/ここにR/ここに穴
- どこが手で触れる部分か・力がかかる部分か
3-2.寸法は「全部」ではなく「重要なところだけ」
- 絶対に守りたい寸法(取り合い、ピッチ、径など)
- 人が握る・踏む・押す部分の幅や径(人体寸法ベースでもOK)
- 社内治具・既存部品と関係する寸法
例:
「平均的な日本人成人男性が片手で握れるイメージで、グリップ径φ30前後」
「女性オペレーターでも無理なく届くレバー長さ」
といった “誰が使うか”まで書いておくと、設計側が人体寸法データを前提にモデリングできます。
4.写真・動画+スケール:現物の情報量を安く稼ぐ
ブラザーが挙げてくれた通り、写真+直尺 はめちゃくちゃ有効です。
4-1.写真を撮るときのポイント
- 必ずスケール(直尺・メジャー)を一緒に写す
- 正面・側面・上面に近いアングルを数枚
- 特に問題のある箇所はアップで撮る
これだけで、
画像上でおおよその寸法比を取れるので、
「現物は後日発送、まずは写真で打ち合わせ」 という進め方も可能になります。
4-2.動画で「動き」や「使い方」を伝える
静止画では伝わりにくいのが 動きと使い方 です。
- 組み立て・分解の様子
- 人が握る/押す/回す瞬間
- 他の部品との干渉しそうなところ
これをスマホ動画で撮ってもらい、
「ここが干渉している」「ここがガタつく」と音声で説明してもらえると、
図面には載ってない“生きた情報” が共有できます。
5.現物を送る:王道だけど「丸投げ」はNG
現物支給はリバースエンジニアリングの王道です。
ただし、現物だけ送っても“何を期待してるか”は伝わりません。
5-1.現物と一緒に必ず伝えたいこと
- 現物と「同じ」ものが欲しいのか
- 現物を「ベースに改良」したいのか
- 現物のどこに問題があったのか(割れやすい/摩耗が早い/組み付けにくい 等)
5-2.NG条件もあえて明文化する
- 外形寸法は変えたくない
- 取付け穴位置は絶対に固定
- 相手機(既存装置)は一切触れない
など、「ここをいじられると困る」部分をはっきりさせておくと、
改良提案も安心して出しやすくなります。
6.“付属情報”としてあると嬉しいもの
手段(図面・スケッチ・写真・現物)に加えて、
次のような情報があると、一気に提案の幅が広がります。
- 相手部品の情報
- 取り付けられる相手機の図面・3Dデータ
- ボルト・ピン・シャフトなど、組み合わせる既存部品の寸法
- 不具合サンプル・摩耗した現物
- どこが摩耗しているか
- どこにクラック・変形が出ているか
- 測定データ・検査成績書(あれば)
- 現行品の実測値
- ばらつきの傾向(ここだけ外れやすい 等)
- 数量とスケジュール
- 初回ロットの数
- 将来の量産想定(年間○○個)
- 試作・評価に必要な納期感
7.結局どう伝えるのがベストか?組み合わせ例
実務的には、「これだけ」という単独手段より、組み合わせが現実的です。
パターンA:図面あり+形状少し変更したい
- 現行図面(2D)+可能なら3Dデータ
- 変更箇所に赤ペンやコメントを入れたPDF
- 用途・優先順位(コスト・強度・重量など)をメールで補足
👉 「設計見直し+リバースエンジニアリング」に最適
パターンB:図面なし/古くて使えない、現物はある
- 現物支給
- 写真(スケール付き)数枚+動画
- 簡単なスケッチに“重要寸法”だけ記入
- 現行品の不満点・改善したい点を文字で整理
👉 「現物トレース+改良提案」に最適
パターンC:まだ現物はないが、アイデア段階で相談したい
- アイデアスケッチ
- 想定寸法(人の手サイズなど)
- 使用シーンの説明テキスト
- 目標コスト・数量のイメージ
👉 「リバースエンジニアリングというより、共創設計」に近いフェーズ
8.まとめ:情報の“出し惜しみ”をしないのが最短コース
リバースエンジニアリングをうまく進めるコツは、
「図面・データ・写真・現物・言葉」を
可能な範囲で出し惜しみせずに組み合わせること
です。
- 図面・CADがあれば、まずそれをベースに
- そこにスケッチ・写真・動画で「意図」を乗せて
- 現物とNG条件・優先順位で微調整する
ここまで揃えば、
「ただのコピー」ではなく、依頼側のアイデアをきちんと反映したリバースエンジニアリングにぐっと近づきます。
