製造メーカーや調達担当の方から、よくこんな声を聞きます。
「量産より個数が少ないのに、どうして試作の方がこんなに高いの?」
「見積りを見て“単価×数量”で計算したら、思ったより高くて驚いた」
実は、試作と量産ではコストの構造そのものが違うため、
同じ「1個あたりの単価」で比べると、どうしても試作の方が割高に見えてしまいます。
この章では、金属加工の現場目線で
「なぜ試作のコストは高く見えるのか」を分解し、
そのうえで依頼側が上手にコストコントロールするポイントまで整理します。
1.試作と量産では「前提」がまったく違う
まず押さえておきたいのは、試作と量産の大きな違いです。
- 試作
→ 設計の確認・評価・改良が目的。
仕様も変更前提で、「まず作ってみる」段階。 - 量産
→ 決めた仕様で、安定して作り続けるのが目的。
工程・治具・段取りを徹底的に最適化し、単価を下げていく段階。
つまり、試作は
「設計と製造の“テストステージ”のコストが、ほとんどそのまま1個に乗ってくる」
フェーズであり、
量産は
「最初の立ち上げコストを、多数個で割り算していく」
フェーズです。
この構造の違いが、そのまま見積りの違いとして表れます。
2.試作コストを押し上げる6つの要因
2-1.段取り・立ち上げ工数が“丸ごと1個に乗る”
試作でも、量産と同じように
- 段取り
- 加工プログラム作成
- 試し削り・条件出し
- 段取り替え
といった立ち上げ作業は必ず発生します。
ところが、試作では
- 「1個~数個」のために
- ほぼフルセットの立ち上げ工数が必要
になるため、この立ち上げコストがほぼ1個で負担する形になり、
結果として単価が高く見えるのです。
2-2.治具・工具・プログラムの開発費が分散しにくい
試作といえども、精度が必要な部品や複雑形状の部品では
- 専用治具の設計・製作
- 専用刃物の選定・購入
- 3D CAMデータやNCプログラムの作り込み
が必要になることがあります。
量産であれば、
「最初に多少コストをかけてでも、1個あたりのコストで回収できる」
のですが、試作ロットが極端に少ない場合は、
「開発費を数個で割るしかない」
ため、どうしても1個あたりの負担が重くなります。
2-3.段取り替えとラインの“割り込み”による機会損失
現場側から見ると、試作は多くの場合
- 既存の量産ラインや汎用機のスケジュールに割り込ませて行う作業
になります。
つまり、
- 試作を入れるために既存の段取りを一度外す
- 一時的に量産を止めたり、ラインの流れを変えたりする
- 試作後に、また元の段取りに戻す
という**「二度手間・三度手間」**が発生します。
このとき現場では、
単純な加工時間だけでなく、
- 段取り替えによるロス時間
- 機械を専有している時間(他の仕事を断る/遅らせることによる機会損失)
も含めて、試作のコストを見積もっていることが多いのです。
2-4.「試作だからこそ」増える品質確認の手間
試作は、単に形を作るだけでなく、
- 設計の妥当性確認
- 寸法・形状・性能の検証
- 顧客やエンドユーザーの評価用
といった目的を兼ねるため、品質確認の密度が高くなりがちです。
例えば:
- 三次元測定機でのフル測定
- 測定結果のまとめ(検査成績書・レポート)
- 必要に応じた追加測定・写真撮影・トレーサビリティ記録
など、量産に入る前だからこそ
「いつもより丁寧に測る・残す」 ことが多くなります。
これらの工数は、「見えにくいコスト」ですが、
試作の見積りにはきちんと含まれます。
2-5.材料・外注費が“割高条件”になりやすい
試作では、材料や外注についても次のような要因で割高になりがちです。
- 材料を1本単位で購入するしかない(端材・余りが多い)
- 特殊材やサイズが必要で、少量だと仕入れ条件が悪い
- 表面処理・熱処理などの外注も、少量だとロット割りが効かない
- 短納期対応の割増費用が発生することがある
量産では、「ロット単位での仕入れ」「定期発注」で単価を下げていけますが、
試作はどうしてもスポットかつ少量の取引になりやすく、
その分、材料・外注費も1個あたりの負担が大きくなります。
2-6.「設計変更リスク」を見込んだ“保険”も含まれる
試作段階では、設計が完全に固まっていないことが多く、
- 寸法や形状が途中で変わる可能性
- より高精度加工への変更が突然入る可能性
- 評価結果を受けて作り直しになる可能性
など、不確定要素がどうしても残ります。
加工側からすると、
「手戻りや作り直しが発生しても、赤字にならないように」
ある程度のリスクを見込んだ見積りにせざるを得ず、
それもまた、試作の単価を押し上げる一因になります。
3.見積書のどこに「試作ならではのコスト」が隠れているか?
試作の見積書をよく見ると、
次のような項目が「試作ならではのコスト」として含まれていることが多いです。
- 段取り費・段取り時間
- プログラム作成費・CAM費
- 治具製作費(または冶具償却費)
- 試作立ち上げ一式
- 検査・測定・成績書作成費
- 特急・短納期対応の割増
もし「なぜこの金額になるのか?」と感じた場合は、
「この中で、量産に移行したらどの費用が薄まるのか?」
を一緒に確認してみると、
- 今回の試作はどこにお金がかかっているのか
- 量産時にどこまで単価が下がりそうなのか
を整理するヒントになります。
4.依頼側ができる「試作コストを賢く抑える」5つのポイント
試作のコスト構造を理解したうえで、
依頼側で工夫できるポイントもあります。
4-1.「変更が多そうなところ」と「変えない前提のところ」を分ける
設計段階で、
- まだ詰め切れていない部分(今後変わりそうな部分)
- すでに仕様が固まっている部分(変えたくない部分)
をあらかじめ整理し、
試作依頼時にその情報を共有しておくと、
- 全体を高精度・高コストで作るのではなく
- 「ここは仮仕様で簡易加工」「ここだけ量産前提の精度」といった作り分け
の提案がしやすくなります。
4-2.優先順位(QCD)をはっきり伝える
試作の段階から、
- 今回はとにかく納期優先
- コストは多少上がっても、評価試験に間に合うことが最優先
- 逆に、スケジュールに余裕があるので、コスト重視で進めたい
などの 優先順位 を伝えておくと、
加工側も
- 段取りをどう組むか
- どこまで工程を作り込むか
- どこまで検査を厚くするか
を調整しやすくなり、結果として無駄なコストの発生を防ぎやすくなります。
4-3.将来の量産見込みをセットで伝える
試作時点で、
- 年間○○個程度の量産を想定している
- 量産に移行した場合、何年くらい継続しそうか
といった情報があると、加工側は
- 量産を見据えた治具・工程設計
- 試作段階からのコストダウン計画
を立てやすくなります。
結果として、
「今回の試作はこの単価ですが、量産に入るとここまで下げていけそうです」
といった中長期の見通しとセットで議論できるため、
「高いか安いか」だけでなく「投資として妥当か」を判断しやすくなります。
4-4.試作対象をまとめて依頼する
案件によっては、
- 似たような形状の部品が複数ある
- 同じような工程を通る部品がいくつかある
といったケースもあります。
その場合、
「部品ごとにバラバラに試作依頼」
ではなく
「一括で試作ロットとして相談」
することで、
- 共通治具・共通段取りで対応できる
- 材料や外注ロットをまとめられる
といったメリットが出て、相対的にコストを抑えやすくなります。
4-5.「見積の考え方」を遠慮なく聞いてみる
BtoBの試作案件では、
「なぜこの金額なのか、きちんと説明できる加工メーカーかどうか」
も重要なポイントです。
- 段取り工数
- プログラム作成
- 治具・検査の考え方
などについて、
「どこにコストがかかっていますか?」 と素直に聞いてみることで、
- 無駄を削る余地はないか
- 次回からの頼み方をどう工夫できるか
といったヒントが見えてきます。
5.まとめ:試作は「割高」ではなく「役割が違う」
試作のコストは、量産の単価と比べるとどうしても高く見えます。
しかし、その背景には、
- 段取り・立ち上げの工数が丸ごと乗っていること
- 治具・プログラム・検査など、立ち上げそのもののコストを少数で割っていること
- 設計変更リスクや品質確認の手間が、試作段階に集中していること
といった**“役割の違い”**があります。
試作は、「失敗しても許される、最後の検証の場」
量産は、「検証結果をもとに、安定して作り続ける場」
という性格の違いを理解したうえで、
依頼側・加工側が情報を共有しながら進めていくことで、
- ムダなコストを抑えつつ
- 必要な評価をきちんと行い
- スムーズな量産立ち上げにつなげる
ことができます。
