――量産立ち上げを楽にするチェックポイント
第1章では「試作・量産試作・量産の違い」を、
第2章では「なぜ試作のコストは高く見えるのか」を整理してきました。
第3章のテーマは、その一歩先――
「じゃあ実務で、量産試作をどう依頼すれば量産立ち上げがスムーズになるのか?」
です。
量産試作は、
「図面どおり作れるか」だけでなく「この条件で量産して本当に大丈夫か」を確認するための重要なステージ。
ここでの依頼の仕方しだいで、
- 量産立ち上げがスムーズに進むか
- それとも、承認後にトラブル続出でやり直しになるか
が大きく変わります。
1.量産試作でよくある「すれ違い」
まずは、現場でありがちなパターンから。
ケース1:試作と同じノリで頼んでしまう
設計・開発側の感覚では、
「前回の試作とほぼ同じだから、同じ感じで○○個お願いします」
という依頼になりがちです。
しかし加工側から見ると、
- 設備や治具は量産前提で考えたい
- 工程能力やサイクルタイムも取りたい
という「量産モード」で考えるべき案件です。
依頼側は“試作の延長”のつもり、加工側は“量産の入り口”のつもりというズレが起きると、
見積り・工程・品質の期待値が合わなくなります。
ケース2:量産前提なのに「小ロット品」と誤解される
依頼の仕方がふわっとしていると、
加工側にはこう見えることがあります。
「特に量産の話も書かれていないし、
ただの小ロットリピート品かな?」
その結果、
- 治具や工程が量産仕様になっていない
- 量産時の単価やリードタイムの見通しが取れていない
といった状態で「量産試作だけが終わる」ことになります。
ケース3:サンプルはOKなのに、量産工場が困る仕様になっている
量産試作段階で、
- 高精度な汎用機で丁寧に加工
- 熟練オペレーターが手作業で調整
- 特殊工具を使ってギリギリ狙った条件で加工
という形で「きれいなサンプル」ができると、
承認は通ります。
しかし、いざ量産工場に図面だけ渡すと、
- 「うちのライン設備ではその条件が出せない」
- 「この公差だとサイクル・歩留まりが現実的ではない」
となり、図面は通ったのに“現場で再設計”という二度手間が発生します。
2.依頼前に整理しておきたい5つのポイント
量産試作を依頼する前に、
最低限ここだけは整理しておくとスムーズです。
2-1.年間想定数量とライフ(何年続く部品か)
- 年間何個くらい使う見込みか
- この製品は何年くらい販売・使用する予定か
→ 量産側は、これを聞いて
- 治具・刃物・設備投資にどこまで踏み込むか
- 単価をどのレベルまで落としに行くか
を判断します。
2-2.「必須」と「変えてもよい」の線引き
図面や仕様の中で:
- 絶対に譲れない仕様(機能・安全・法規)
- ある程度余裕がある仕様(外観・仕上げ・部分的な寸法)
を、自分たちの中で一度整理しておきます。
依頼の時点で
「こことここは量産でも厳守、
この辺りは量産性を見て調整可能」
と伝えられると、加工側も量産を見越した提案がしやすくなります。
2-3.品質・コスト・納期の優先順位
全部大事なのは当然ですが、
現場レベルではどこかに“優先順位”が付きます。
- まずは品質最優先で評価用を揃えたい
- 初期ロットのコストは多少高くても構わない
- 逆に、すでに販売価格が決まっていて、コスト前提が厳しい
など、プロジェクトとしての事情を共有しておくと、
- 試作段階では品質側に振るのか
- 量産を見据えてコストも同時に詰めるのか
といった方針を合わせやすくなります。
2-4.量産工場側の制約条件
- 実際に量産する工場・ラインの設備構成
- 現場のスキルレベルや作業環境
- 夜勤/自動運転/多台持ちなど、運用条件
これらを最初から共有できると、
「そのラインで無理なく回せる図面と工程」
を前提に、量産試作を組み立てることができます。
2-5.承認プロセス(初品承認・PPAPなど)
- 社内での初品承認ルール
- 顧客側のPPAPや品質承認手続きの有無
- 必要な資料(検査成績書、寸法保証リスト、工程FMEAなど)
量産試作の段階で、
「このロットでどこまで承認段階を進めるのか」
を決めておくと、
「後からもう一回やり直し」のリスクを減らせます。
3.見積もりの段階で確認しておきたいこと
量産試作の見積もりを取るとき、
次の点は遠慮なく確認しておくと良いポイントです。
3-1.量産と同じ設備・工程で作るのか?
「この量産試作は、本番の量産と同じ設備・工程を想定していますか?」
と聞くことで、
- 汎用機での「とりあえず試作」なのか
- 量産設備を意識した「トライ生産」なのか
を切り分けられます。
3-2.量産時の単価イメージ
「今回の量産試作条件から見て、
量産数量○○個/月になった場合の単価イメージはどのくらいでしょうか?」
と質問しておくと、
- 現時点での工程設計がコスト的に現実的か
- どこを改善すれば量産で単価を下げられそうか
といった議論につなげやすくなります。
3-3.治具・工具・検査方法の“使い回し”可否
「今回使用する治具・工具・検査方法は、量産でもそのまま使える前提でしょうか?」
ここを確認しておくことで、
- 今回の投資が“量産にそのまま活きる”のか
- 試作専用の一時的なやり方なのか
が見えてきます。
4.図面と仕様書の「書き方」のコツ(量産試作編)
量産試作の図面・仕様では、
次のような工夫をしておくと、現場とのすれ違いを減らせます。
4-1.「厳守寸法」と「目安寸法」を分けておく
- 機能・安全・取り合いに関わる寸法
- 製造側が量産性とバランスを見て調整してよい寸法
を、図面上や備考欄でわかるようにしておきます。
例:備考欄に
・※寸法a, b, cは機能上の重要寸法につき、量産時も現公差を厳守
・その他の公差は量産工程に合わせて要相談
といった一文を書いておくだけでも、
「すべての寸法を最大精度で頑張る」誤解を防げます。
4-2.量産での検査方法をイメージしておく
図面の要求精度が、
- 三次元測定機でないと測れない
- 特殊ゲージを作らないと確認できない
ようなものばかりになると、
量産時の検査コストが跳ね上がります。
量産試作の段階で、
「この寸法は、量産ではどのように検査する想定か?」
を検討し、必要なら
- ゲージ化を前提に寸法・公差を見直す
- 機能寸法で管理できるように変更する
といった “検査しやすい図面” に近づけておくことも大切です。
5.量産試作でチェックしておくべき“現物”のポイント
量産試作のロットが上がってきたら、
「寸法・外観OK」で終わらせず、次の点もぜひ見ておきたいところです。
5-1.組立性・作業時間
- 現場で組み立てるときの作業時間
- 作業手順の複雑さ
- 特定のベテランしかできないような“職人仕事”が発生していないか
→ 量産では、「誰がやってもそこそこ安定して組める」状態が理想です。
5-2.段取りの手間と工具寿命
- 段取り替えの回数・手間
- 工具の持ち具合(どれくらいで交換が必要か)
- バリ取り・手仕上げにどれくらい時間がかかっているか
これらはすべて、
量産時のサイクルタイムとコストに直結します。
5-3.歩留まりと“ギリギリ品”の扱い
- ロットの中で何個くらいが規格ギリギリだったか
- 不良・手直し品がどの工程で発生したか
- 量産に入ったときに、安定して合格品を出せる見込みがあるか
量産試作は、
「たまたま○個OKだったから承認」
ではなく、
「量産しても大きな問題なく続けられそうか」
を見るステージです。
6.量産試作.comがお手伝いできること
「量産試作.com」では、
- 試作~量産試作~量産立ち上げまで一貫して見据えた工程提案
- 図面・仕様段階での“量産目線”のレビュー
- 量産試作ロット+簡易レポートによる社内承認・顧客説明の支援
といった形で、
「作るだけ」ではなく「量産までを含めた立ち上げ」を一緒に考えるパートナーを目指しています。
7.まとめ
量産試作を「ただの小ロット生産」として扱ってしまうと、
- 承認後の量産現場が苦労する
- 追加の試作・再承認が必要になる
といった遠回りにつながりがちです。
- 依頼前に、数量・ライフ・優先順位・制約条件・承認プロセスを整理する
- 見積もり段階で、設備・工程・単価イメージを一緒に確認する
- 図面・仕様・現物チェックで、「量産しやすさ」を意識する
このあたりを押さえておくことで、
量産試作は「コストのかかる儀式」から「量産を楽にする投資」に変わっていきます。
